TANOKYU

11月の素材 アンチョビ

 私たち日本人は生物資源の豊かな海に囲まれた島国に生活をしているせいで、古来より動物性タンパク質は魚介類から得るのがふつうで、その恵みを活用する知恵も長い歴史のなかから様々に培われてきました。特に現在のように動力や機械を使った漁業ができなかった時代には、沿岸でたくさん捕れる小魚を巧みに料理活用する工夫が数多くみられます。塩焼きや刺身、やや鮮度が落ちたら煮物、とれ過ぎたら干物や佃煮にして保存するなどあますことなく利用されてきました。さらには、いりこや煮干しなどのように旨味成分が豊富なものは、料理をいちだんとおいしくする出汁をとるために重要な役目をします。

 すこしばかり加工のしかたは違いますが、イタリアにも使用目的が似通った、小魚を上手に利用した食材があります。最近はパスタ料理などにもしばしば使われ、すっかりポピュラーになったアンチョビがそれです。アンチョビはカタクチイワシの身を塩とオリーブオイルで漬け込んだ、塩辛にちかい食材です。サラダやパンにのせてそのまま食べることもありますが、おおくは他の食材の旨味をひきだす黒子の役割をするのが専らです。使われる範囲は驚くほど多岐にわたり魚介料理は言うに及ばず、野菜料理や肉料理にもさかんに登場します。

 今の季節店先にたくさん出回っている、きのこをメインにしたアンチョビ料理をひとつ紹介しましょう。きのこはなんでもかまいませんが、なるべく多くの種類を使ったほうが、味に変化があってたのしめます。椎茸、しめじ、舞茸など最低3種類くらいは用意してください。きのこはよごれを落とし、食べやすい大きさに切ります。厚手の鍋にサラダオイル、にんにくのみじん切り、アンチョビを入れ香りがたつまで炒めます。きのこを加えしんなりしてきたら別の鍋で沸騰させたワインビネガーを回し入れ塩コショウで味を調えます。冷えたら冷蔵庫で保存してください、きのこのマリネのできあがりです。白ワインや軽い赤ワインによくあいます。


10月の素材

 秋を形容する言葉は数えきれないほどありますが、やはり一番はじめに思い浮かぶのは、「収穫の秋」であり「食欲の秋」などの食にまつわるものでしょう。山々から紅葉のたよりが届く頃になると、海の幸・山の幸が食卓を賑わし団欒をいっそう盛りたててくれます。今月取り上げる梨も秋を代表するもののひとつです。古来中国では果実よりも花を愛でる傾向がつよく、その白い花は雪にたとえられ大いにもてはやされたようです。今でも歌舞伎の世界を梨園と呼ぶ習わしは、唐の玄宗皇帝が梨園で宴を催すのを好み、楽士たちをおいた故事からと聞きます。

 日本の梨には大きく分けて、赤梨系と青梨系があることはよく知られているところです。赤梨を代表するのが最近目にする機会がめっきり減ってしまった長十郎です。青梨の代表は二十世紀で、どちらも1890年代の後半に品種改良の末相次いで誕生し、ながく両系を代表する品種として親しまれてきましたが、現在は新たな品種に主役を奪われているのが寂しくもあります。最近店頭でよく見かけるのは、豊水や幸水などの赤梨系と青梨系の交配種です。この二種類に新水を加え三水などと呼ばれ、最も多く生産される系統になっているようです。

 日本の梨の特徴はあのシャリシャリした歯ざわりの食感と、あふれるほどの果汁のみずみずしさにあります。西洋梨のようなとろっとした食感とはまったく違うことから、英語ではサンドペアと呼ばれ明確に分類されているとか。西洋梨はケーキの材料や料理にもよく使いますが、日本の梨は純然と生食用として品種改良が重ねられて来た為、あまりほかの用途にはしません。しかし、いつものように剥いた梨を食べる前にひと手間かけると、また違った楽しみが増えます。皮を剥いて芯を取った梨を荒く果肉が残る程度にミキサーにかけ、好みで砂糖や蜂蜜・レモン・洋酒などを加え冷凍庫で冷やします。半分凍った状態になったらできあがり、よく冷やした器に取り分けミントなどを飾れば、立派なディナーのデザートです。


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