このコーナーでご紹介しているアルバムには、ある共通した傾向が知らず知らずのうちに顕れて来てしまいます。先ず第一にメロディアスでいたずらに感情を刺激しないこと、さらには多くの人が無意識のうちに耳にした事のある曲が何曲か含まれていることなどです。反対にビートが激しく落ち着いて会話を出来にくくするものや、最新のヒット・ナンバーで、思わず聞き入って仕舞ったり、口ずさんで仕舞うようなものは避けるようにしています。店内でおかけするBGMですからあたりまえの事ですが、物足りない方や好みが合わない方はご勘弁ください。今月の一枚もそんなラインに沿ったアルバムです。"ヤング・ラスカルズ"は1965年から72年にかけて活躍したアメリカのロック・バンドです。68年からはバンド名から"ヤング"を取って単に"ラスカルズ"になりました。むしろ、こちらの方が良く知られているバンド名かもしれません。音楽的にはロック・バンドなのですが、R&Bのフィーリングを色濃く感じさせる音創りをしています。彼らも60年代アメリカでの"ブルー・アイド・ソウル"と呼ばれる、音楽上のブームの影響を色濃く受けています。白人によるソウル・ミュージックが一時大いにヒットチャートを賑しました。昨年12月にこのコーナーでご紹介した、"ライチャス・ブラザース"はその代表的なグループです。
"ライチャス・ブラザース"が曲創りはせず、シンガーに徹していたのに対し"ヤング・ラスカルズ"は、オリジナル曲が中心の活動を展開しました。彼らの3枚目となるこのアルバムも、"スティーヴィー・ワンダー"が前年ヒットさせた「太陽のあたる場所」をカヴァーしている以外はすべてオリジナル曲で構成されています。特にアルバム・タイトル曲の「グルーヴィン」は、67年6月全米第1位を記録した名曲です。その他にも全米でベスト・テン入りした曲が、3曲も含まれている素晴らしいアルバムです
グラミー賞の6部門で栄誉に輝いた92年の「アンプラグド」そして、自身の音楽的ル−ツのブルースにあらためて取り組んだ94年の「フロム・ザ・クレイドル」、両アルバムの大ヒットに見られるように、90年代前半からのクラプトン人気はわが国でも異常とも思えるほど高まっています。そして極付けは99年にリリースされた「ベスト・オブ」が、150万枚の驚異的な売り上げを示したことです。Jポップ全盛の日本のマーケットで、海外のロック・アルバムが100万枚以上のセールスを記録することは、その道の専門家でもとうてい予想のできない数字であったと言われ、クラプトン人気は今や現象と言い換えてもよさそうな勢いです。そうした比較的あたらしい流れに乗って聴き始めた方が、次には90年代より前の曲も聴いてみたくなるのが、ファン心理です。もちろん30数年の永いキャリアのある彼の事ですから、数々の名アルバムを送りだしていますので、選ぶのに迷ってしまいますが当店のお勧めはこの一枚です。長いドラッグ中毒から脱却し劇的とも言えるカムバックを果たしたのが、74年にリリースされたこの「461 オーシャン・ブール・ヴァ−ド」です。
このアルバム製作にはあらかじめ決められた曲がレコーディングされたのではなく、集まったミュージシャンとクラプトンによるジャムの繰り返しのなかで創られています。そうした音楽で結びついた仲間達と共有した時間の中で、徐々にかつての情熱と自信を取り戻して行くエポック・メイクなアルバムです。タイトルがマイアミにあるこのアルバムのレコーディング・スタジオの住所をそのまま使っていることからも、クラプトンの思いが伝わって来ます。また、その中の一曲「アイ・ショット・ザ・シェリフ」は、レゲエの世界では神格化されているボブ・マーリィの初期の作品をカヴァーしたもので、彼を世界中に紹介する役目も果たしています。
私がかなり前から折に触れて不思議に思っていた事の一つが、今回取り上げるエルトン・ジョンの日本における評価の低さです。彼の30年にのぼる音楽界での実績、ステージでのエンターテナーぶり、そして何よりシンガー・ソングライターとしての天与の才能。世界中の音楽シーンで、そのどれをとっても彼に匹敵するミュージシャンを探すのはとても大変だというのは、日本のポップスファンもよく知っているはずなのですが。勿論、熱狂的なファンや正当な価値基準で評価している方が大勢居ることも承知していますが、その数がいささか少なすぎる感は否めません。そんなファンが溜飲を下げ、小躍りしそうなアルバムがリリースされました。2000年10月20日にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行なわれたステージのライブ・アルバムが「ワン・ナイト・オンリー」のタイトルで発表されたのです。ここに収められた17曲は、エルトン・ジョンの数々のヒット曲のほんの一部ですが、彼のファンが聴きたいと思っている曲が緻密な構成で網羅された見事なアルバムです。さらに素晴らしいゲストを交えたデュエット・ナンバーが配され、ライブならではの楽しさを演出して、いやがうえにもその場の雰囲気に引き込まれてしまいます。聴かせどころのつぼを押さえた、まさにスーパー・エンターテナーの面目躍如と言ったところでしょうか。
そして彼のライブでいつも話題になるのは、人々の眼を楽しませる奇抜なステージ衣装の数々ですが、今回のステージがどのようなものであったかは、想像するしかないのが残念です。しかしCDジャケットの豹柄のピアノを素足で弾いている写真からすると、だいたい予想がつきます。さらに中を開けてびっくりです、CDそのものも豹柄なのです。いったい誰が豹柄のCDなどを思いつくでしょうか。いつまでも消えることの無い遊び心と、ファンを徹底的に楽しませようという気持ちの現れに、思わずほほ笑んでしまいます。こうしたエルトン・ジョンでいるかぎり、21世紀の活躍にもおおいに期待が持てるというものです。