今月お勧めの一枚は、美しいメロディがクリスマス・パーティーや大晦日のカウントダウン・パーティーなどにぴったりのオールデーズのアルバムです。ライチャス・ブラザースは、ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドの二人の男性デュオです。ふたりの名前を聞けば分かるように本当の兄弟ではありません。このような他人同士なのにブラザースが付けられたグループには、ウォーカー・ブラザースなどの例を挙げるまでもなく割とよくあるネーミングです。そんな創作的ブラザースのせいか"ライチャス"という言葉を辞書で牽くと「正しい・正義の・高潔な」などの理想を掲げたような意味が書かれています1962年に結成されてから3年ほどはさしたるヒット曲にも恵まれず低迷を続けていた彼らの名前を、一躍全米に知らしめたのが「You've Lost That Lovin'Feeling(ふられた気持ち)」でした。この曲こそ6月にこのコーナーでアルバムをご紹介した、バリー・マンとシンシア・ワイル夫妻によってもたらされたものです。もちろんバリー・マンのアルバムにもトップの曲としてキャロル・キングとのデュエットで収録されていますので、聴き較べてみるのもおもしろいと思います。この他に1965年にはさらに数曲のヒット曲がますます彼らの名を高め、66年にはキャロルキングの書いた「You're My Soul And Inspiration」がヒット・チャート第一位を獲得しました。しかしその後大ヒットと呼べる作品には恵まれず、トップグループとして全米を沸かせたのは実質的にこの2年間であった浮き沈みの激しいグループでした。
その彼らが再び注目を集めたのが、まだ記憶に新しい80年代後半になって、映画「ゴースト(ニューヨークの幻)」のテーマ曲として、65年にリリースされた「Unchained Melody」が採用されたことによってでした。この映画の世界的なヒットによって、その悲しく美しいメロディーが再び評価されリバイバルヒットとなりました。ソウル・ミュージックから影響を受けた独特のファルセット唱法は時を越えて聞き継がれる名曲です。
スティーヴィー・ワンダーは言わずと知れた、世界中で愛されているソウルミュージックのスーパースターですが、このアルバムは彼が音楽部門のプロデューサーとして参加した映画のサンド・トラック盤としてリリースされたものです。ですから、このCDはいままでの彼のアルバムとは少し趣の違った印象があります。映画の"The Woman in Red"は喜劇映画によく登場するジーン・ワイルダーが監督・脚本・主演をしたコミカルな作品です。映画の内容に沿った音楽構成に重きを置いたせいか、このアルバムではスティーヴィー・ワンダーが重視してきた自身の内面世界や社会性のあるテーマではなく、耳に心地よい優しさにあふれたラブソングやポップな曲が収められています。その中の一曲"心の愛"はシングルカットされ大ヒットし、親しみやすいメロディーは彼の代表曲のひとつと言えます。もうひとつ、ディオンヌ・ワーウィックがソロで一曲、デュエットで二曲参加していることもこのアルバムを特徴付けている点です。とは言え、聴き始めこそいままでの方向性とのギャップに多少の違和感を感じますが、曲を追うごとにすっかりスティーヴィーの世界へと誘い込まれてしまいます。
若干12歳でデビュー以来、ずっと長くトップの座にすわり続けているスティーヴィー・ワンダーですが、1950年生まれの彼はようやく50歳を迎えたばかり、20世紀を代表するミュージシャンであるばかりか、21世紀をも代表するミュージシャンと呼ばれるに違いありません。
ブルースは日本の歌謡曲のタイトルにも使われている位ポピュラーな音楽ですが、本来のブルースは50・60年代のロックン・ロール、それに続くロック・ミュージックやあらゆるポップス音楽の基盤となったアメリカの黒人音楽です。大勢の黒人ミュージシャン達が長い時間をかけて独特のスタイルを作り上げてきたブルースですが、その中でも最も多くの人々の耳と心に深く刻み込まれているのがロバート・ジョンソンのギターと唱声です。デルタ地帯と呼ばれる深南部のローカル・ミュージックであったブルースを世界的な音楽に高めていくきっかけをつくった人物です。ロック界のスーパースター達のなかにも彼を敬愛している人がたくさんいます。特に海を渡ったイギリスでは、"ブリティッシュ・ブルース"と呼ばれるブームが起きたほどです。キース・リチャーズ・・・・「最初に聞いたとき、2本のギターが聞こえてね。ジョンソンがまったく一人でやっているのに気が付くまで、かなりの時間がかかったね。
エリック・クラプトン・・・・「ロバート・ジョンソンほど奥深くソウルフルなものには出くわしたことがない。ジョンソンの音楽は人間の声が発したものとしては、最高にパワフルな叫びだ。」
彼は1938年に27歳で毒殺されるという劇的な最後を迎えるまで、わずか29曲をレコードに残したに過ぎません。この2枚組みアルバムは別テイクを含め彼が残した遺産とも言える41曲すべてが収められています。秋の夜長にバーボンをお伴に、しみじみと聞くのが何より似合うアルバムです。