今月のランチタイムには、9月29日に65才の誕生日を迎えるロックン・ロールのスーパースター、ジェリー・リー・ルイスのテンポのよい歌声がながれています。カントリーやブギ・ウギ、ゴスペル、R&Bなど様々な音楽の影響をうけてうまれたロックン・ロールは、たちまち当時の若者達を虜にして行きました。エルビス・プレスリーやチャック・ベリーなど、一夜にしてアイドルスターがぞくぞく誕生して、50年代のアメリカの音楽シーンを彩っていったのです。
その中の一人ジェリー・リー・ルイスは、ギターをリード楽器にするのが大勢を占めていた当時、単身ピアノを武器にロックン・ロールの世界にデビューしました。今でこそピアノはロック界においても重要な位置を築いていて、ビリー・ジョエルやエルトン・ジョンの名を出す迄もなくピアノマンのロッカーは特別視される事はありませんが、その頃はかなり異端であったようです。しかし、端正なマスクと魅力的な歌声、思わず踊り出したくなるピアノプレイでデビューするやたちまち不動の人気を得ました。
50年代後半から60年代にかけて大活躍した彼等も、今ではオールデーズの括りの中で語られるに過ぎなくなっているのは寂しい限りですが、伝説にするのには少し早いようです。今年はピアノが誕生して300年の節目にあたり、世界中で様々なイベントが行なわれるようです。その一つ、ニューヨークで世界的な有名ピアニスト達が素晴らしい演奏を繰り広げたコンサートの模様が8月にNHKで放送されました。各音楽ジャンルから選び抜かれたメンバーの豪華さはとても日本では実現不可能でしょう。その中でも我等がジェリー.リー・ルイスは、並みいるトップミュージシャンを向こうにまわし、張りのある歌声とピアノプレイで観客を虜にしていました。懐かしさよりむしろ喝采を叫ぶ思いで、目頭が熱くなりました。ロックン・ロール健在なりです。
ジャズは好みの差がとてもはっきり顕われる音楽ジャンルですが、あまり好きでないと言う方の中には、ジャズは難解だというイメージだけがインプットされていて聴かず嫌いになっている場合が多いように見受けられます。難解と言われる理由の最たるものは、メロディーがはっきりしなくて何を演奏しているのか判らないという事でしょう。これこそがジャズと他の音楽との違いを端的に表す大きな特徴なのですが、それ故に拒否反応を示す方が多いのは残念と言うほかありません。ジャズは楽譜のとうりに演奏したり、歌ったりする音楽ではありません。基になるメロディーを演奏者や歌手が自分の感性によりアドリブと呼ばれる即興プレイにより、その場の雰囲気やバンドのメンバーとのやり取りによって造り上げてゆく音楽です。ですから昔から「ジャズに名曲なし、名演奏あるのみ」と言われています。
さて今月のお勧めの一枚はそのジャズから、あまり拒否反応の出ないような聴き易いものを選びました。チック・コリアはいち早くエレクトリック・ピアノを取り入れたり、ロックとジャズの融合を図るなど先進性を持ったピアニストです。これはそれまで在籍していたマイルス・デイヴィスのバンドを離れ、新しいジャズを展開しようと組んだバンド「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の二枚目となるアルバムです。全体を通してやさしく明るい雰囲気に満ちたアルバムですが、それはパーカッションにブラジル出身のアイアート.モレイラ、その夫人のフローラ・プリムがボーカルで参加していることに負うところが大きいと思います。
ブラジル音楽の香りが加わったことにより爽やかで軽やかなテイストにあふれたこのアルバムは、真夏の一服の清涼剤のようです。とかくジャズを敬遠しがちな方も違和感なく聴いていただける一枚だと思います。
夏になるとボサ・ノヴァを聴きたくなるのは、私一人ではないはずです。1950年代後半にブラジルで生まれたボサ・ノヴァは、今や世界中で愛されるミュージックですが、情熱的なリズムが特徴的なサンバが底流を成しているだけに、どうしても太陽が照りつける夏が一番似合うようです。今月取り上げた一枚は、ジャズ・アルバムの範疇に入れられることも多いアルバムです。その理由として、世界的に知られたジャズ・サックス奏者スタン・ゲッツのリードアルバムであることが挙げられますが、むろんボサ・ノヴァの歴史的名盤としても高く評価されています。
白人のテナー・サックス奏者として人気が高く、クール・ジャズの創始者として独自の地位を得ていたスタン・ゲッツですが、60年代に入るとその名声に翳りがみえてきます。そのような時にブラジルから新しい音楽ボサ・ノヴァが、アメリカにも流れ込んできました。いち早くボサ・ノヴァに注目したスタン・ゲッツは、その新しい音楽を生み出した人物の一人として知られる、ジョアン・ジルベルトと組んでこのアルバムを作り上げ、見事に名声を復活させました。このアルバムには、ジョアンのほかにボサ・ノヴァの巨匠アントニオ・カルロス・ジョビン、アストラッド・ジルベルトなど初期のボサ・ノヴァの隆盛を支えた面々が参加しています。
暑い日が続く今年の夏ですが、シャワーを浴びさっぱりしたところで、くつろぎながらよく冷えたビールとボサ・ノヴァは最高のコンビネーションです。リズミカルでいながら、いたずらに気分を昂揚させない音楽性は、大人の音楽と言えるかもしれません。